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  • 執筆者の写真小林大賀 Taiga Kobayashi

心理学と演劇① ユング「パウリの夢」備忘録

「パウリの夢」をざっと読んでみた。物理学者ウォルフガング・パウリの夢をユングが分析するセミナー記録。パウリの夢を徹底的に錬金術とマンダラのイメージに結び付け解説される。物理学者の夢(無意識)がこんな古代、中世的な象徴に彩られていることには驚き。ただ、調べたところパウリはチェコ生まれで、プラハは錬金術の本場中の本場。錬金術は科学の前身であるし遺伝記憶のようなものなのか。


気になったのは演劇の起源の話。

古代のギリシャ地方では雄ヤギ(サテュロス)に扮した乱痴気騒ぎが春に行われる。のちにtragosと呼ばれ、tragedy(悲劇)という語へと発展する。

「もともと演劇とは、境界の定められた空間における再演のことで、半獣の男たちによって演じられるものでした。つまり、彼らは出来事を、心理学的な出来事を、それもはるか昔の出来事を再現して、そうすることで自分たちの力を増していったのです。そうやって彼らは集合的無意識に再び触れたわけです。文明のはらむ抽象性のなかで迷子にならないためにも、こうした再演がとても重要でした。文明化された人々は、自然からどんどん遠ざかり、自然の事象を取扱えなくなっていったのです」

この儀式はカーニバルの起源でもあるという。始原の人、部族の祖先=英雄との同一化。自然から離れていくことの危険性に対する営み。


強調される「心的なものを経験する」というのはつまづく言葉。つまり、私たちが「心的なものの経験」を欠いているということになる。全て自分が作り出した「意識」だと考えることで、意識に上らない広大な領域(無意識)を捨て去ったということらしい。ユングは時代の病と言うが?

半獣的な祭儀、ディオニソス祭には古来女性信奉者が多数いたという。この乱痴気騒ぎで本能的な生命力を高めていたとか。日本のビジュアル系ロックに典型的な、女性ファンを中心とした現代のハードなステージングは似ていると思う。

古代にはオルフェウスが動物を従えている図像があるという。つまり、諸本能を音楽で手懐けているという象徴的な絵。対して、キリスト教は右回りに(無意識に遡るのは左回りと決まっている)、意識に展開していく宗教だという。自分が映像作品で用いる回転は知らずといつも左回りだったということに気づく。


「共時性をめぐる謎」

パウリとユングの出会いは「共時性原理:シンクロニシティ」に発展していった。

ついでに調べて意外だったのは、パウリの方からこの発想を持ちかけていったということ。物理現象と心理現象のつながり。パウリはマンハッタン計画にも携わった物理学者デヴィッド・ボームに繋がっている。デヴィッド・ボームと哲人クリシュナムルティとの対談「時間の終焉」は難しくて書けないが、点と点が線になった感がある。



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